2017年5月27日土曜日

ヘルペスワクチン最前線 05: HerpVついに…

 Guy Shouting


今回は、ちょっと(というか非常に…)残念な結果をお知らせすることになります…。

これまでHerpVについては、このブログでも何度か紹介してきました。一番新しい記事はこちらで確認できます。

まぁ、HerpVの概要を簡単にまとめておくと…、


  • アメリカマサチューセッツにあるAGENUSというバイオ関連会社が開発
  • 特徴的なのは、「熱処理により弱毒化されたHSVワクチン」を使っている点。「特にHSV-2ウイルスに対抗する2種類のT細胞(CD8+とCD4+)を活性化させる」ことに大きな特徴があり、Phase 2を2015年に完了
    • Phase 2の内容は、以下のとおり。
      • 80人の被験者のうち、70名に HerpV + QS-21(活性剤)を各週で3回投与し、残りの10名には偽薬を同回数投与した。
      • 実験の前後45日間、性器部分の粘膜を綿棒で摂取してもらった。
    • Phase 2の結果として報告されているものは以下のとおり。
      • 排出されるウイルス量が、実験前と比べて15%減少していた!
      • 確認された血中ウイルス価が、34%減少していた!

といった感じになるかと思います。


  「最近はそういえばあまりHerpVの情報は聞かないなぁ…」


と思っていたので、いつもお世話になっている Trial.org で HerpV の最新治験情報を調べてみました…。その結果が、以下の2つの図のようになります。






ちょっと小さすぎるので、クリック&拡大して読んでみたらわかると思いますが… ( ゚Д゚)


  2015年に治験が完了しているが、それから追加の治験を行っていない!


ことが分かります…。

PubMedなどのデータベースを使って論文を調べたりしてみたのですが、2011年に以下の論文が出されて以来、研究論文が一切出てきていないんですね…。

Safety and immunogenicity of long HSV-2 peptides complexed with rhHsc70 in HSV-2 seropositive persons.

ちょっと「???」となってしまったので、AGENUSのホームページで新しい情報を確認してみました。

こういう製薬系の会社は、「研究開発情報」を Pipeline というセクションで説明しているのですが、AGENUSの Pipeline情報を見ると…、




という感じになっておりまして…、


  HerpVがリストに載っていない!


んですね… ( ゚Д゚)

思わず、「エエエエエエエッ!」(;・∀・) と思ってしまったので、AGENUSの投資家情報を覗いてみると…、

2014年にリリースされた投資家情報にはHerpVが載っているのに、2015年には載っていない

んですね…。

そこで、いつもお世話になっているForumで検索をかけてみると…、「えっ…!」と思うような情報がUPされておりまして、その情報元を辿ると、次のような投資家向け情報が掲載されていました…。

10-K: AGENUS INC Published: Mar 16, 2017 4:17 p.m. ET
 ASV Vaccine Platform
In June 2014, we reported positive results from a Phase 2 clinical trial with our synthetic HerpV vaccine candidate for genital herpes. This candidate was the first potential recombinant, off-the-shelf application of our HSP technology. The study demonstrated that the HSP70-peptide-QS21 vaccine produced significant CD4 and CD8 positive T-cell responses to antigenic peptides, and that the side effects were mild to moderate and tolerable. We decided not to advance with this technology in herpes but, based on our findings, we launched our ASV synthetic cancer vaccine program in 2015. We remain on target to initiate a clinical trial for this program in the first half of 2017.
2014年には、HerpV Phase 2に関するポジティブな結果を報告することができた。このワクチン候補は私たちが開発したHSP(Heat Shock Processing=いわゆる熱処理)技術を基に作成したもので、T細胞CD4とCD8の反応を効果的に高めることに成功した。今後は、この技術をヘルペスワクチン開発にではなく、2015年に新しく立ち上げるHSP技術を応用したがんワクチン開発に向けることとすることにした。 
The objective of our ASV program is to develop a fully synthetic, yet individualized patient specific vaccine targeting the neo-epitope landscape of each patient's cancer. Mutation-based neo-epitopes, which will form the basis for the immunogens used in ASV, are almost always particular to a given patient. Therefore, ASV is a largely individualized vaccine product. With a small amount of a patient's tumor as a sample, our ASV program is designed to utilize next generation sequencing technologies coupled with highly complex bioinformatics algorithms to identify mutations in a tumor's DNA and RNA. Once these mutations have been identified, we will manufacture synthetic peptides encoding these neoepitopes, load these peptides on to our recombinant HSP70 and deliver a fully synthetic polyvalent vaccine to the patient. We believe that the HSP70 platform will shuttle the mutated peptides to sites where they are recognized by the immune system and elicit a cytotoxic and helper T cell response in patients with cancer. We expect that once identified, these tumor cells will be killed and cleared by the immune system. For additional information regarding HerpV and AutoSynVax, please read Part I-Item 1. "Business" of this Annual Report on Form 10-K.
PSV Vaccine Platform
PSV is a vaccine candidate designed to induce immunity against a novel class of tumor specific neoepitopes: those arising from dysregulated phosphorylation of various proteins in malignant cells, rather than from tumor-specific mutations producing abnormal protein sequences. In all cells, protein sequences can have post-translational modifications, such as becoming phosphorylated (a phosphate group is added to particular amino acid residues) that can be associated with cellular functions such as signaling. In cancer
cells this process can become dysregulated and proteins that are not normally phosphorylated can become phosphorylated and proteins that are phosphorylated can become phosphorylated at alternative sites. Some of these mis-phosphorylated peptides can be processed by the cellular machinery that leads to antigen . . .
Mar 16, 2017

つまりは…、


  ヘルペスワクチンから撤退し、新たに立ち上げるがんワクチン開発に技術転用する


ということを決定したようです… ( ゚Д゚)

同じ資料に、開発費の年次推移も書いてあったのですが、それを見ると「2014年度から開発が縮小方向に向かっていったことが明らか」でして…、2014年以前は 30,309,000 USD(約34億円)だった開発費が…、

  • 2014年: 2,443,000 USD(約2.7億円)
  • 2015年: 293,000 USD(約3,300万円)
  • 2016年: 11,000 USD(約120万円)

というように劇的に削減されていったようなんです…。(´・ω・`)

まぁ、よく見てみると、「排出されるウイルス量が、実験前と比べて15%減少していた」、「確認された血中ウイルス価が、34%減少していた」という結果(2014年度に公表)も、正直なところ…、

  あまりパッとしない…

わけでして、AGENUSのような小さなバイオ系の会社であれば、継続するのは難しい問わあるを得ないでしょう…。( ゚Д゚)


モチロン、HerpVの治験で得られた知見は、ちゃっかり他のワクチン開発に転用しているようでして…、
今は、がん治療で用いるネオエピトープ(抗体が認識する抗原の一部分)に対応した免疫反応(おそらくは、CD8+とCD4+)を活性化させる
ために用いられているようです…。





HSV2の治療候補が1つ減ってしまったのは非常に残念ですが、是非とも AGENUSさんにはがん治療薬の開発で頑張ってもらいたいと思います!


まだまだ、これからも新薬・開発中のワクチンについての情報を提供していきますので、よろしくお願いします☆(^^♪


では、次回の報告をお楽しみに♪


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