2017年6月30日金曜日

ヘルペスワクチン最前線 14: Biomere ワクチンX?





やっとこさ、重い腰を上げて…、「ヘルペスワクチン 第14弾」の報告をすることに致します!首を長くしてお待ちになっていた方もいらっしゃるかと思いますが、ホンマに長い間お待たせをしてしまいました…。

今回、長くかかってしまった理由はいくつかあります。勿論、仕事とリサーチ&投稿のバランスもありますが、それに加えて、「今回のワクチンは非常に情報を探し当てるのが難しかった」こともあり、報告が遅れてしまいました…。ホンマにスミマセン… ( ;∀;)


(1)今回のワクチンはどこが作っているの?

今回のワクチン、実はまだ「名前が付いていない」ようなんですね…。そのせいもあり、リサーチするのが結構大変でした…。普通なら、HerpVax とか ASP2151 などのコード名を付けると思うんですが、今回のワクチンについてはまだ開発コード名が付けられていないみたいなんです…。

そこで、ここでは、便宜上、「ワクチンX」としたいと思います!(^^)/

で、そのワクチンXの開発元は、Biomere(バイオミア?)というところのようでして、ホームページを見ると、最近よくある「スッキリ系」のデザインになっていますね。




Biomereについて調べてみると、どうやらマサチューセッツ大学医学部から「完全独立した」(Spin Out)バイオ系ベンチャー企業のようでして、いわゆる「外部機関との共同研究をよりスピーディー&効率的に行うために設置した大学発ベンチャー企業」とは一線を画すもののようです。


(2)それで、どんなワクチンなの?

先ほども書いたのですが、なかなかこの論文を探すのが大変でして…、今回は何とか「ワクチンX」について書いてある論文を探すことができました。

まず、論文のタイトルですが…、
A Mucosal Vaccination Approach for Herpes Simplex Virus Type-2
というもので、2011年に出されたもののようです。

本文にも目を通してみたのですが、なかなか理解するのが難しかったので…(汗)、今回はアブストラクトとグラフを中心に解説してみたいと思います…。

まずは、アブストラクトについてですが、内容としては以下のようにまとめることができるかと思います。

An estimated 1 out of every 5 Americans is infected with herpes simplex virus type 2 (HSV-2). Efforts in developing a potent vaccine for HSV-2 have shown limited success. Here we describe a heterologous vaccination strategy for HSV-2 based on an intramuscular DNA prime followed by a liposome-encapsulated antigen boost delivered intranasally. Both portions of the vaccine express the immunogenic HSV-2 glycoprotein D. In female Balb/c mice, this heterologous immunisation regimen stimulated high titers of serum neutralising antibodies, a DNA priming dose dependent T helper type response, enhanced mucosal immune responses and potent protective immunity at the portal of entry for the virus: the vaginal cavity. A clear synergistic effect on immune responses and protection from infection was seen using this heterologous immunisation approach. Suboptimal DNA prime (0.5 μg) followed by the liposome boost resulted in an 80% survival rate when mice were infected 2 weeks after immunisation. A higher dose of DNA priming (5 μg) followed by the liposome boost resulted in sterilising immunity in 80% of mice. The vaccine induced durable protection in mice, demonstrated by a 60% survival rate when lethal infections were performed 20 weeks after the immunization primed with 0.5μg of DNA vaccine.

  •  異なるワクチン接種の方法(heterologous vaccination strategy)を組み合わせ、その効果を調べることとした。その方法とは、(1)DNAプライム(今回はグリコプロテインDに対応した免疫誘導用抗原)を筋肉注射する、(2)その後に、同じグリコプロテインDに対応した抗原でリポゾームでくるんだものを点鼻形式で接種させる。
  • マウス(メス)に上記の方法で抗原を接種させてみたところ、以下のことが明らかになったらしい…。
    • 血清中の中和抗体濃度が高くなった
    • DNAプライムの濃度に応じてヘルパーT細胞の反応が活性化された
    • 粘膜部分での免疫反応が活性化された
    • 性器部分におけるウィルスからの防御が高まった
論文中でいくつかグラフが示されていたのですが、その中でも「オッ」と思ったのが「性器部分におけるウィルス価(=ウィルスの相対量)」に関するグラフでして…。そのグラフが以下のようなものになります。



まず、左のグラフ(A)に関してですが、このグラフはウィルス感染後1, 3, 5, 7日目におけるワクチンの効果を現したもので、各線はそれぞれ、
  • 黒丸  何も処置をしていないマウス
  • 白四角 0.5μgのグリコプロテインD抗原(筋肉注射)のみ
  • 黒四角 5.0μgのグリコプロテインD抗原(筋肉注射)のみ
  • 白三角 リポゾームにくるんだグリコプロテイン抗原(点鼻接種)のみ
を意味します。

これを見ると、感染してから3日後から効果が表れ始め、
「5.0μgのグリコプロテインD抗原(筋肉注射)のみ」(黒四角)と「白三角 リポゾームにくるんだグリコプロテイン抗原(点鼻接種)のみ」白三角に関しては、7日目にウィルス量がゼロになっている
 ことが分かります。

右のグラフ(B)ですが、これは投与したワクチン濃度の違いによる変化を表したもので、(A)のグラフと同じく 1, 3, 5, 7日目での相対的なウィルス量を示しています。各線はそれぞれ、
  • 黒丸  何も処置をしていないマウス
  • 白四角 0.5μgのグリコプロテインD抗原(筋肉注射)とリポゾームでくるんだ抗体
  • 黒四角 5.0μgのグリコプロテインD抗原(筋肉注射)とリポゾームでくるんだ抗体
となります。

これを見ると、
 「0.5μgのグリコプロテインD抗原(筋肉注射)とリポゾームでくるんだ抗体」(白四角)は7日目にかなり効果が出てきている。その一方、「5.0μgのグリコプロテインD抗原(筋肉注射)とリポゾームでくるんだ抗体」(黒四角)は、初日から全くウィルスが検出されていない
ことが分かります。

点鼻薬形式のワクチンがあることは以前にもお話ししましたし、インフルエンザのワクチンにも同じようなタイプがあったと思いますので、さほど珍しくはないと思うのですが、筋肉注射と組み合わせていくことで、結構な効果が期待できるんですね!

ちょっと調べてみると、今回の接種方法は「プライム・ブースト異種ワクチン接種法」というものらしく、効果が高く&比較的安全な接種方法として注目されているようです。興味がある方は、以下の説明を参考にしてみてください。


プライム-ブースト異種ワクチン接種法(heterologous prime-boost vaccination strategies)
多くのウイルスが組換えベクターとして考案されているが,ヒトや類人猿におけるほとんどの知見は,ポックスウイルスおよびアデノウイルスに基づくベクターから得られている。このような異なる二種類の組換えウイルス(同一の抗原遺伝子が導入されている)を,免疫誘導(プライム)と免疫増強(ブースト)の二段階で接種することによって,目的の抗原に対する免疫応答のみを増強することができる。したがって,運び手としてのウイルスに対する反応性をむやみに増強することがないので,自己に対する交差反応や副作用などをできる限り抑える効果もあり,安全性の面からも有用な方法である。
 「ワクチン開発の新戦略と今後の方向性」より引用

 今回紹介した「ワクチンX」ですが、まだまだ動物実験の段階のようで、治験までにはもう少し時間がかかりそうな感じですね…。


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と、ここまで書いておいて、「ん?」というような情報がありましたので、ついでにUPしておきますね…。

Biomereのホームページをうろついている時に、ふと…、「NEWS」→ 「Poster」をクリックしてみると、

  「A Mucosal HSV2 Vaccine Candidate for Clinical Trials
  (粘膜HSV2ワクチン候補 臨床治験向けポスター)

というのがあったんです!

そのポスターというのが、以下のようなものでして…、




中身を見てみると、今回報告した研究が基になっているようです。

私も「オオっ!」と思って、いつもお世話になっている Trial.org などで調べてみたんですが…、

  全く、情報が無いんです!( ゚Д゚)

今はまだ動物実験の段階なので、治験が出来る段階ではないのでは…、と思うんですが…、使っているワクチンがグリコプロテインDを抗原としたものなら、これまでにもいろんな治験で使われているから、比較的治験として承認がされやすいのかなぁ…、とも思ったりしたのですが…。

  う~ん、分からないですね…。

このポスターを入手したのが2日前ぐらいなんですが、今(2017年6月30日現在)はアクセスできないみたいなので、多分、間違いなのかなぁ…。

  う~ん … ( ;∀;)

何か、妖しい感じがする「ワクチンX」のお話しでした… (;・∀・)


それでは、今回の報告はここまでとさせて頂きます☆

また、次回の報告をお楽しみに!


よろしければ、コメントなどもお願いします☆(^^♪



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