2017年6月13日火曜日

ヘルペスワクチン最前線 12: NE HSV2 点鼻型ワクチン



皆さん、お久しぶりでございます。今日(2017年6月13日)は月曜日ですが、皆さん、楽しい週末を過ごされたことと思います。これから夏になり、水の事故が増えると思いますが、キャンプや海水浴ではくれぐれもお気を付けくださいませ m(__)m

では、お待たせいたしました…、「ヘルペスワクチンリスト解説 第12弾!」でございます。

今回はほんの少し前にご紹介した、アメリカ ミシガン州にある NanoBio という会社が開発している「点鼻薬型ワクチン NE HSV-2」についてでございます。以前の投稿については、こちらでご確認ください。
本当は昨日(月曜日)に投稿しようかと思っていたのですが、思ったよりもリサーチが大変で…、ちょっと少し時間がかかってしまいました…。スミマセン…。
というわけで、今回のお題に入らせて頂きます m(__)m



(1)以前の投稿における疑問…

まず、簡単に NE HSV2 について解説しておくと、Nano-Bio のホームページによると、

  • NE-HSV2は、ワクチンの活性剤(アジュバント)である
  • その NE HSV-2を実際にギニーピッグに投与してみたところ…、
    • 発症については、
      活性剤(アジュバント)を投与しなかったギニーピッグ:12匹中12匹が発症
      活性剤を投与したギニーピッグ:12匹中2匹が発症
    • 再発率については、
      活性剤を投与しなかった組と比較して、活性剤を投与した方では再発の回数が 51%少なかった

という結果をえることができたそうです。

ですが、ちょっと何か気になりませんか?銭形個人が以前にNE HSV2について投稿をした時から気になっていたのが…、

NanoBioが開発していたのはアジュバントなわけで、本体となるワクチンじゃないはず…。NanoBioのホームページを見ても、HSV-2向けの研究開発としてはこのアジュバントだけで、本体となるワクチンはどこにも書かれていない…。はてさて、本体となるワクチンは…??

という疑問だったんです…。

そこで、いろいろと調べてみたところ、NanoBioが2014年に報告している、

NanoBio to Present Data Demonstrating the Potential for its Intranasal Vaccine to Protect Against Genital Herpes Infection

に少しだけ詳しい情報が載っていました。



クリックするとホームページに移動します


その部分が以下の引用になります。

The prevention of infection and viral latency, as measured by the absence of viral infection of the dorsal root ganglia in 92% of animals vaccinated with the NE vaccine.
股関節神経節(多分…)に潜むHSV-2ウィルスに関しては、ワクチンを接種したギニーピッグの92%でその確認ができなかった。=感染予防ができた!
The ability to induce enhanced protection against chronic recurrence of herpes lesions as compared to the intramuscular MPL/Alum gD2 vaccine (p=0.01). 83% of animals vaccinated with the intranasal NE vaccine were completely lesion-free during the seven week chronic phase, as compared to 58% of animals immunized with an intramuscular MPL/Alum gD2 vaccine.
 MPL/Alum gD2(アルミニウム塩を基にしたアジュバント&グリコプロテインDワクチン)を投与したHSV2ギニーピッグの中で、7日間症状が見られなかったものは、皮下注射群では58%であったのに対し、点鼻薬群では83%だった。
The achievement of enhanced protection despite eliciting lower systemic antibodies than the intramuscular MPL/Alum gD2 vaccine, demonstrating the benefit of the mucosal and cellular immune responses elicited by the intranasal NE vaccine.
皮下注射の時と比べて、体全体における抗体反応を抑え、その一方で粘膜部や(性器部分)における反応を高めることができた。

日本語訳がホンマにザックリしたものになっておりますが…(汗)、大体はこんな感じの意味になりますです…。

 ということになると…、「MPL/Alum gD2ってどんなワクチンやねん?」( ゚Д゚) と気になってしまうわけですね…。そこで、もう少し調べてみることにしました…。


(2)補助金の申請を見てみると…

NanoBioが1.5億円(以前の投稿では150億円と書いていましたが、タイプミスでした…)の補助金をもらうことになったことは、以前の投稿でもお知らせしたとおりなんですが、その補助金というのが SBIR(Small Business Innovation Research)というもので、いわゆる政府が主体となってやっている「新規事業を開拓するための補助金制度」なんですね。

当然、アメリカ政府が全部取り仕切ってやるわけにもいかないので、分野分野に切り分けて補助金の受付・選考をしているようで…、今回 NanoBio が受理することになった補助金は、NIH(National Institute of Health 国立衛生研究所)の中にある感染症専門部署(Division of Microbiology and Infectious Diseases: DMID)がその受付・選考を担当しているようなんです。

そして、その SBIR のホームページを見てみると…!




というように、ちゃんと NanoBio の情報が掲載されておりました!( `ー´)ノ

補助金額が $798,081(約8千万円)となっていますが、これは2年間の継続なので、合計すると1億5千万~1億6千万ぐらいの補助金額になるかと思います。

そこで、ここにもう少し詳しい情報が書いてありました。それが以下のようなものになります。

i. Intranasal immunization conferred favorable protection following HSV challenge compared to intramuscular administration
皮下注射よりも点鼻薬のほうがHSVに対する予防効果があった 
ii. Robust protection was conferred even though intranasal immunization elicited lower serum antibody levels indicating that additional mucosal immunity determinants are involved
点鼻型ワクチンにより、リンパ液内での抗体はあまり生成されなかったが、ウィルスに対するより高い予防効果を示すことができた。これはおそらく、粘膜で効果的に作用するものが影響したためであろう…(多分、こんな感じの意味になると思います…) 
iii. Incorporation of two glycoproteins gB and gD into the NE vaccine was superior to gD antigen alone a finding not observed with previous intramuscular vaccine candidates
 グリコプロテインBとDに対する抗原とNE(Nanoemulsionナノ乳化剤?)で作られたワクチンは、グリコプロテインDだけでできたワクチンと比較すると高い効果を示した。
iv. Intranasal immunization of the NE gB gD vaccine showed superior efficacy in the guinea pig model for prevention of infection, shedding, chronic recurrence and viral latency as compared to a conventional intramuscular gD vaccine formulated in alum and monophosphoryl lipid A MPL
上記の点鼻型ワクチンは、ギニーピッグモデルで、感染、ウィルスの排出、慢性的な再発、ウィルスの非活性化のいずれにおいても、従来のグリコプロテインDワクチンよりも 優れた効果を示した。

おそらく、読者の中には、「えっ、従来のグリコプロテインDワクチンって何よ?」と思う方もいらっしゃると思うんですが…、これは、銭形が考えるに!

以前、安全性は確認されたが、効果があまりなかったので開発が取りやめになった HerpVac のことではないか…

と思うんですね!

ここで、ちょっと HerpVac の情報を Trial.org で調べてみると…、調査するワクチンに関しては、



クリックして拡大

GSK Biologicals' glycoprotein D (gD)-Alum/3-deacylated form of Monophosphoryl Lipid A (MPL) candidate genital herpes vaccine

と記載してあって、 上の項目 iv とほぼ同じことが分かると思います!以前、失敗した治験を、新しく開発した「点鼻型」という新しい方法で再挑戦してみた、感じなんでしょうね…。

この新しく「点鼻型ワクチン」として開発を可能にしたものが、先の引用にも出てくる Nanoemulsion(ナノ乳化剤?)のようで、どうやら「ナノシリコンを使った乳化剤」らしいんです…。まぁ、分かりやすく考えてみると…、「ナノシリコンを使った潤滑剤みたなもので、ワクチンの効果を飛躍的に高めてくれるもの」ということになるでしょうか… (^◇^)


というわけで、以上、今回調べてみたことををまとめてみると…、

安全なのは分かっているけどあまり効果がなかったワクチン(HerpVac)を、ナノシリコンを使ったアジュバントで改良し、点鼻薬という形で投与してみところ…。そしたら、あらビックリ!スゴイ効果がありました ( ゚Д゚)

という感じの実験(多分、Phase 1なのかな…)になるかと思います…。


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スウェーデンで「失敗博物館」ができたことは、ニュースなどでご存知の方もいらっしゃると思います(Newsweek日本版の記事はこちら)が、今回のこの治験(というか新薬の開発)も、「過去の失敗をうまく利用して発展的に改良している」点では非常に似ていると思います (^^)/

まさに、「七転び八起き」ですね!

ただ、「他社が失敗した治験を基に新しい技術を開発する」ところに、ある種の逞しさと創造性を感じました。やっぱり、あきらめないということはスゴイことなんですね!

生きることはとても辛いことが多いです…。ですが、その辛いことが持つ意味を、一度は考えてみる必要が私たちにはあるのかもしれません…。最近、注目されている Resilience(レジリエンス:回復力)というテーマで Youtube を調べてみると、とてもイイ動画が見つかりました!日本語訳も見れるので、是非、一度見てみてください☆



Best TED TALK on
Super- Resilience-How to FALL UP
Dr. Gregg Steinberg/ TEDxRushU/


今、この時にツライ思いをしている方、この辛さは貴方に向けられた Wakeup Call なのかもしれません。そして、この辛さを乗り越えるための技術が日々改良・開発されています。



将来に、そしてこの瞬間にある希望胸に、生きてまいりましょう!

2 件のコメント:

  1. いつも情報提供ありがとうございます。
    期待のTheravaxですが、仮に今後の治験が全て成功するとしても、FDAからの承認を得るまでには10年程度かかるものなのでしょうか?
    また、FDAより先に、厚生労働省が承認するという可能性はありうるのでしょうか?
    その可能性がないのだとしたら、先は長いですね(-.-;)

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    1. コメント、ありがとうございます。😃😃
      まず、Theravaxの治験についてですが、アメリカ国内ではなく、カリブの小さな国で Phase 2 を、メキシコで Phase 1 を行うように考えているようで、アメリカのFDAを通さずに治験を実施しようとしているようです。早ければ、今年度中に行う予定のようです。
      FDAに関しては、メキシコなどで治験データを積み上げて、そのデータを基に承認を求めていくようなのですが、例えば、世界的に権威のある論文に治験データ結果についてまとめた論文が掲載されれば、承認のプロセスは早くなるかもしれません。ただ、Rational Vaccineの方達は、開発を担当しているハロルド博士の体調が思わしくないこともあり、メキシコで承認してもらった後は、ワクチンを必要とするアメリカ人がメキシコで打ってもらうことを考えているようです。そういうことなので、おそらくFDAの承認はかなり後の事として考えていると思います。従って、厚生労働省の承認は、ずーっと先のことになるかもしれませんね…。

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